もしあの時、違う選択をしていたら、今の人生はどうなっていたでしょうか。そんな「もしもの世界」は、ただの想像上の話ではなく、実は科学の世界でも真剣に議論されるテーマです。今回は、パラレルワールドという概念について、その定義から科学的な理論、実際に体験したとされる不思議な話、そして人気作品で描かれる世界まで、深掘りしてご紹介します。
パラレルワールドとは?無数の可能性を秘めたもう一つの世界
パラレルワールドとは、私たちが存在するこの世界から分岐し、それと並行して存在する別の世界(時空)を指します。並行世界、並行宇宙、並行時空とも呼ばれ、SF作品ではおなじみの概念です。
パラレルワールドは、「異世界」や「魔界」といった、私たちの宇宙とは異なる次元を持つ世界とは区別されます。むしろ、私たち自身の宇宙と同一の次元を持つ、もう一つの現実と捉えられています。SFでは、「もしもこうだったらどうなっていたのか」という、あり得るかもしれない世界を描く究極の夢として、ポピュラーなアイデアです。
また、本来は相対性理論で使われる言葉である「世界線」という言葉も、2010年代以降、ゲーム『シュタインズ・ゲート』の影響でパラレルワールドと同じ意味で広く使われるようになりました。
現実に存在する?パラレルワールドの科学的根拠
パラレルワールドはフィクションの世界だけでなく、現代物理学(量子力学)の世界でも、その存在の可能性が理論的に語られています。いくつかの主要な理論を見てみましょう。
多世界解釈
量子力学の解釈の一つに「多世界解釈(エヴェレット解釈)」があります。これは1957年に理論物理学者のヒュー・エヴェレット氏によって提唱されました。この理論は、観測結果が確定するたびに宇宙は分岐し、無数の並行する世界が同時に存在するという考え方です。
多世界解釈では、宇宙全体が量子状態にあるとされます。私たちが生きるこの世界は、瞬間ごとに環境との相互作用によって確率的に自動的に分岐し、その相互作用の可能性の数だけ並行する世界が存在すると考えられます。つまり、私たち自身の大きな世界でも、ミクロの量子世界と同じ法則が働いていると解釈するのです。例えば、ある選択をした世界と、別の選択をした世界が、それぞれ同時に存在しているというイメージです。
しかし、この解釈には「一度分岐したら、もう一方の世界の存在を実験で確かめることができない」という決定的な問題があり、懐疑的な意見も存在します。
泡宇宙モデル
「泡宇宙モデル」は、宇宙の始まりであるビッグバンの後、急激なインフレーション(膨張)が起こった際に、無数の小さな宇宙が「泡」のように次々と生まれたと考える仮説です。これらの泡宇宙は、それぞれが異なる物理法則や条件を持っている可能性があります。
泡宇宙モデルでは、宇宙の膨張が続く限り、新たな宇宙が生まれ続け、それぞれの宇宙が独立して存在するとされます。これらの宇宙は私たちの観測可能な領域の外に存在するため、直接的な確認は難しいものの、理論的には無限の可能性を秘めています。私たちの宇宙が生命の誕生に都合が良すぎる物理定数を持っていることに対し、無数の宇宙が存在すれば、生命が誕生しうる宇宙が一つくらいあっても不思議ではないという説明ができます。
超弦理論と余剰次元
超弦理論では、私たちが認識している空間が3次元、時間が1次元の合計4次元の時空に加え、私たちには認識できない6つの「余剰次元」が存在すると提唱されています。これらの余剰次元は、極めて小さく丸まっているため、私たちの感覚では捉えられないとされます。
この余剰次元の構造によって、私たちの宇宙の素粒子の種類や質量、空間のエネルギー密度といった物理法則や物理定数が決定されると考えられています。余剰次元が取りうる状態は非常に多く、安定した状態だけでも10の500乗以上とされます。これは、それと同じだけ物理法則の異なる宇宙が存在する可能性を示唆しており、私たちの宇宙の物理法則が奇跡的に見える理由を、無数の宇宙の中の一つとして説明できるのです。
マンデラエフェクト
「マンデラエフェクト」とは、多くの人が事実と異なる記憶を共有している現象を指します。例えば、特定のキャラクターの見た目や商品のロゴが、多くの人の記憶とは異なっているといった例があります。
この現象の原因はいくつか考えられますが、最も有力な説の一つとして、無意識のうちに並行世界へ移動し、それによって現実とは異なる記憶を持つようになったという説が挙げられています。マンデラエフェクトは、並行世界が存在する証拠の一つとして注目されています。
あなたの隣にも?パラレルワールドの不思議な体験談
現実には、人々が「パラレルワールドに迷い込んだのではないか」と感じた不思議な体験談が数多く語られています。
きさらぎ駅の都市伝説
2004年にネット掲示板に投稿された「きさらぎ駅」の都市伝説は、多くの人を恐怖に陥れました。投稿者「はすみ」が深夜に電車に乗っていた際、実在しない無人駅「きさらぎ駅」に停車したとリアルタイムで報告。下車すると、人影はなく、電車も動かず、携帯電話も圏外。その後、片足のない老人や太鼓の音、怪しいトンネルに遭遇するなど、不気味な体験が続き、投稿が途絶えたことで、「異世界に消えた」と話題になりました。
消えた友人S君の記憶
ある小学生の投稿者が、友人S君とアパートの階段を上っていた際、投稿者が途中で立ち止まり、S君だけが2階へ進んでいきました。投稿者は何かに引き止められるように体が動かず、S君を置いて帰宅。翌日からS君は学校に来なくなり、誰に聞いてもS君のことを覚えていないという状況に直面しました。S君の机には別の生徒が座り、S君の家やアルバムからも存在が消えていたため、投稿者だけがS君の記憶を持つ並行世界に移動した可能性が示唆されます。
姿を消した「無敵の聞こえる丘公園」
地図アプリで散歩ルートを探していた拓也さんが、これまで見たことのない「無敵の聞こえる丘公園」という公園名を発見しました。口コミも具体的に書かれていたため、実際に行ってみると、そこには公園ではなく古い邸宅の行き止まりが。GPSは公園の真ん中を指しているのに公園は存在せず、再びアプリを見ると公園名は消えていたという不思議な体験です。
記憶が食い違う恋人
恋人との大喧嘩の翌朝、いつもと違う穏やかな様子の恋人に小さな違和感を覚えるさやさん。普段飲まない甘いコーヒーを飲んだり、利き手ではない左手で食事をしたりする彼の行動に疑問を感じます。決定的なのは、彼が「去年の夏に行った沖縄は本当に楽しかった」と語るものの、さやさんには沖縄旅行の記憶が全くなかったことです。さやさんは、喧嘩の末に別れた別の世界線の彼と、自分の世界の彼が入れ替わったのではないかと推測し、この優しい彼を失いたくないという思いから、真実を告げない選択をします。
昭和65年の1万円硬貨
昭和は64年で終わったはずですが、北海道函館市や茨城県つくば市で「昭和65年の1万円硬貨」が使用され、詐欺事件として逮捕者が出たことがあります。この硬貨は精巧に作られており、入手経路も不明でした。一説には、昭和天皇が65年まで存命していた並行世界が存在し、その世界の住民が持ち込んだものではないかと語られています。
フィクションが描くパラレルワールドの世界
パラレルワールドは、SF作品の大きなテーマとして多くの物語を生み出してきました。その中でも特に有名なのが『STEINS;GATE』です。
『STEINS;GATE』にみる世界線の移動
(出典:PR TIMES)
アドベンチャーゲームを原作とするアニメ『STEINS;GATE』は、「世界線」という言葉を広く浸透させた作品です。主人公の岡部倫太郎は、携帯電話で過去にメールを送る「Dメール」や、自身の記憶を過去の自分に送る「タイムリープマシン」を発明します。
これらの発明を使うと、過去が改変され「世界線の移動」が起こり、人々の記憶が書き換えられます。しかし、岡部だけは、改変前の記憶を維持する「リーディング・シュタイナー」という特殊能力を持っていました。物語は、仲間の命と人類の未来を守るため、岡部が異なる世界線を移動し、過去改変の連鎖の中で奮闘する姿を描きます。
『STEINS;GATE』は、その緻密な伏線回収と、タイムトラベルの描写における矛盾の少なさが高く評価されています。オープニング映像にも数多くの世界線が存在することや、登場人物の運命を暗示する描写など、見返すたびに新たな発見がある構成となっています。
> STEINS;GATE OFFICIAL WEBSITEはこちら
その他の作品
『STEINS;GATE』以外にも、パラレルワールドを題材にした作品は多岐にわたります。例えば、映画『スパイダーマン』では、異なる世界から集まった複数のスパイダーマンたちが共闘する姿が描かれ、多くのファンを魅了しました。また、古くはドラえもんの「もしもボックス」のように、身近な道具で「もしもの世界」を体験する物語もパラレルワールドの概念に通じるものがあります。
> スパイダーマン:スパイダーバース公式Webサイトはこちら
似て非なる概念?マルチバースとの違い
マルチバースとパラレルワールドは、どちらも複数の世界が存在することを前提とするため混同されがちですが、厳密には異なる概念です。
マルチバース(多元宇宙)
科学的理論に基づいて、異なる物理法則や条件を持つ無数の宇宙が存在する可能性を探る概念です。例えば、先述の泡宇宙モデルや超弦理論における余剰次元の考え方などがマルチバースに当たります。それぞれの宇宙は、全く異なる法則で成り立っている可能性があり、私たちから観測することはほぼ不可能です。
パラレルワールド(並行世界)
同一の時間軸上で、異なる選択や出来事が展開する「仮想世界」を指すことが多いです。私たちの世界と似た別の現実が存在し、私たちの選択や行動が異なる結果をもたらすという考え方です。フィクションの世界でよく使われる意味合いで、私たちの世界と「微妙に違う」世界というニュアンスが強いです。
ただし、これらの用語は文脈によって使われ方が異なることもあり、広義には「無数の宇宙」という意味で「パラレルユニバース」と表現されることもあります。
もしパラレルワールドを行き来できたら?
もしパラレルワールドを自由に行き来できるとしたら、私たちの世界はどうなるでしょうか。
物語の世界では、Dメールやタイムリープマシンによって世界線を移動し、過去改変を行うことで、悲劇的な未来を回避したり、あるいは新たな悲劇を生み出したりする様子が描かれます。しかし、現実の科学的な見解では、人間が意識的にパラレルワールドを行き来することは極めて難しいとされています。私たちの体は膨大な数の素粒子でできており、それら全てを別の世界に干渉させるには、事実上不可能なほどの精密な制御が必要だからです。
一方で、量子コンピューターは、パラレルワールドの原理を応用して、ものすごい計算能力を実現できると期待されています。Googleが開発した量子コンピューターは、通常のスーパーコンピューターで1万年かかる計算を200秒で完了させたとされ、この技術がさらに進化すれば、未来は大きく変わるかもしれません。
また、自分の意識をアップデートすることで、望む未来(並行世界)に引き寄せられるという考え方もあります。これは、意識の力で、より良い可能性を現実にするというアプローチです。
終わりなき探求:パラレルワールドが問いかけるもの
パラレルワールドという概念は、私たちの住む宇宙が唯一無二のものではなく、無数の可能性の一つに過ぎないかもしれないという壮大な問いを投げかけます。もし本当にパラレルワールドが存在し、私たちがそれらを行き来することができたなら、世界の全てが変わりうるでしょう。
現実に起こったとされる不思議な体験談や、『シュタインズ・ゲート』のような緻密な設定で描かれるフィクションは、私たちの想像力を掻き立て、この壮大なテーマに夢を広げてくれます。科学はまだその全貌を解明できていませんが、パラレルワールドへの探求は、これからも私たちの宇宙観や存在意義を深く考えさせる、終わりなき旅となるでしょう。