3I/ATLASは宇宙船?「人類滅亡・ウイルス」の噂と本当の正体

3I/ATLASが宇宙船だったらイメージ

最近、SNSや動画サイトで「3I/ATLAS3Iアトラス)」という言葉をよく見かけませんか? 「宇宙船ではないか?」「未知のウイルスを撒き散らしている」「地球に衝突するかもしれない」といった、少しドキッとするような噂が飛び交っています。 2025年の7月に発見されて以来、その不思議な動きや特徴から、「オウムアムア」「ボリソフ彗星」に続く第3の来訪者として、天文ファンだけでなく都市伝説好きの間でも大きな話題となりました。 「本当にヤバい天体なの?」「NASAが情報を隠しているって本当?」と不安に思っている人もいるかもしれません。 そこで今回は、今世界中が注目している『3I/ATLASとは一体何者なのか宇宙船と言われる理由都市伝説の真相、そして現在の位置についてお伝えします。

3I/ATLASは宇宙船?おかしな点、宇宙船と言われる根拠は?

宇宙船っぽい3I/ATLASイメージ

3I/ATLASとは、2025年7月1日に、南米チリにある「ATLAS(小惑星地球衝突最終警報システム)」の望遠鏡によって発見された彗星です。 正式名称は「C/2025 N1 (ATLAS)」ですが、観測史上3番目に発見された恒星間天体(太陽系の外からやってきた天体)であることから、「3I」という符号が付けられています。

一見するとただの彗星のように思えますが、なぜここまで「人工物」「宇宙船」という噂が絶えないのでしょうか? それには、この天体が持つ、いくつかの「普通ではない特徴」が関係しています。

惑星と同じ軌道を「逆走」している?

多くの彗星は、バラバラの角度から太陽系に入ってきますが、『3I/ATLAS』は、地球や火星などの惑星が公転している面(黄道面)とほぼ同じ面を通っています。 しかも、惑星たちが回っている方向とは逆方向に、約175度傾いた軌道で進んでいるのです。 ハーバード大学の天体物理学者アヴィ・ローブ教授らは、このように惑星の軌道面にピタリと一致して侵入してくる確率は極めて低く、「意図的にコントロールされているのではないか」と指摘しました。 このあまりに整った軌道が、「誰かが操縦している宇宙船なのでは?」という噂の火付け役となったのです。

謎の「16時間信号」と「加速」

さらにネット上で話題になったのが、「16.16時間ごとに光が明滅している」という情報です。 これを「宇宙人からの信号(ハートビート)だ!」と捉える説も広まりました。 また、太陽の重力だけでは説明がつかない不思議な加速(非重力加速)をしていることも確認されており、これが「エンジンで加速している証拠だ」と言われる要因にもなっています。

巨大な「マンハッタンサイズ」という噂

マンハッタン

発見当初、核(本体)の大きさが「直径20km以上あるのではないか」と推測されたこともありました。 これはニューヨークのマンハッタン島に匹敵する大きさで、過去に飛来した恒星間天体(オウムアムアやボリソフ)と比べても桁違いに巨大です。 「そんな巨大な物体が、猛スピードで太陽系を横切っているなんて、母船に違いない」という想像を掻き立てるには十分でした。

NASAのシャットダウンと「隠蔽説」

タイミングが悪いことに、3I/ATLASが火星に最接近していた2025年10月上旬、アメリカ政府機関の閉鎖(シャットダウン)により、NASAのWebサイト更新が一時ストップしてしまいました。 火星探査機などが撮影したはずの最新画像がすぐに公開されなかったため、「NASAは何かヤバいものを写してしまい、隠蔽しているのでは?」という陰謀論が一気に加速してしまったのです。

3I/ATLASの正体とは?NASA最新情報が示す「大きさ・成分・軌道」の真実

NASA

ここまで聞くと、「やっぱり宇宙人の乗り物なんじゃ…」と不安になるかもしれませんが、安心してください。 その後の詳細な観測によって、多くの謎には科学的な説明がついています。

正体は「少し変わった成分の彗星」

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)やハッブル宇宙望遠鏡による観測の結果、『3I/ATLAS』は、氷や塵(チリ)を放出している「活動的な彗星」であることがはっきりしました。 宇宙船のような金属の塊ではなく、二酸化炭素(CO2)を非常に多く含んだ、氷の天体であることが分かっています。 また、微量の一酸化炭素も検出されており、これらは彗星として自然な成分です。

信号の正体は「自転」

「16時間ごとの信号」と言われていたものの正体は、彗星の自転周期です。 いびつな形をした彗星が、約16時間かけてくるくると回転しているため、太陽の光を反射する面積が変わり、定期的に明るくなったり暗くなったりしていただけなのです。 決して、宇宙人がモールス信号を送ってきていたわけではありません。

大きさは意外と小さい?

当初「マンハッタンサイズ」と騒がれましたが、ハッブル宇宙望遠鏡の高精細な画像解析により、実際の核の大きさは1km未満(0.32〜0.75km程度)である可能性が高いことが判明しました。 周りに広がっているガスや塵(コマ)が光を反射して大きく見えていただけだったようです。 これなら、過去の恒星間天体と比べても極端に巨大というわけではありません。

「ウイルス」や「衝突」の心配はゼロ

「未知のウイルスを地球に撒き散らす」という都市伝説もありますが、これには科学的根拠がありません。 彗星の尾に含まれるシアン化物(シアン化水素)などは確かに毒性がありますが、これは宇宙空間では一般的な物質であり、地球の大気に影響を与えるほどの濃度ではありません。 なにより、『3I/ATLAS』は地球には衝突しません。 2025年12月19日頃に地球に最も近づきますが、その距離は約1.8天文単位(約2億7000万km)。 これは太陽と地球の距離よりもさらに遠く、火星軌道のさらに向こう側を通り過ぎるだけなので、私たちの生活に物理的な影響が出ることは全くないのです。

なぜ「緑色」や「金色」に光る?

ネット上で「緑色に光って不気味だ」「金色に変化した」と言われることがありますが、これは彗星特有の現象です。 彗星に含まれる炭素原子やシアンが太陽光に反応すると、美しい緑色の光を放ちます。 また、太陽に近づいて塵(ダスト)が多く放出されると、太陽光を反射して黄色っぽく(金色に)見えることがあります。 これらは化学反応によるもので、エイリアンのテクノロジーによる発光ではありません。

双眼鏡や望遠鏡で夜空のロマンを目撃しよう!

彗星

怖い天体ではないと分かったところで、むしろ「一生に一度の天体ショー」として楽しんでみてはいかがでしょうか。 『3I/ATLAS』は、太陽系の外からやってきて、二度と戻ってこない「一期一会」の訪問者です。

現在位置と見え方

2025年12月中旬現在、『3I/ATLAS』は、おとめ座からしし座のあたりを移動しています。 12月19日の地球最接近に向けて、夜空で観測できるチャンスが巡ってきています。 ただし、明るさは12等級程度と予想されており、残念ながら肉眼では見えません。 一般的な双眼鏡でも少し厳しい明るさですが、口径の大きな望遠鏡や、最近流行りの「 スマート望遠鏡(eVscopeやSeestarなど)」を使えば、写真に撮ることができるかもしれません。

観測のポイント

  • 時期
    2025年12月は、深夜から明け方にかけて観測のチャンスがあります。
  • 方法
    肉眼不可。天体望遠鏡や、長時間露光ができるカメラが必要です。
  • 見どころ
    写真に撮ると、恒星とは違う「ぼんやりとした緑や白の光の点」として写るはずです。尾が写る可能性もあります。

もし手元に機材がない場合は、世界中の天文台や天文ファンがSNSにアップしている最新画像を探してみるのもおすすめです。 「#3IATLAS」や「#C2025N1」で検索すると、世界中の人が撮影したこの旅人の姿を見ることができますよ。

都市伝説で語られるような「恐怖の宇宙船」ではありませんでしたが、はるか彼方の宇宙から何億年もかけて旅をしてきた「本物の恒星間天体」が、今まさに私たちの近くを通り過ぎようとしています。 そう思うと、怖さよりも、宇宙の広大さやロマンを感じませんか? ぜひ、冬の夜空を見上げて、二度と会えない宇宙の旅人に想いを馳せてみてくださいね。