KFCスペインのX(旧ツイッター)がヤバい?日本アニメやミームでバズる理由とは

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スペイン ケンタッキー 公式Xキャプチャ

企業の公式アカウント」と聞くと、新商品の告知やキャンペーン情報をお行儀よく発信するイメージがありませんか? しかし、そんな常識を覆し、世界中のネットユーザーをどよめかせているアカウントが存在します。 それが、スペインのケンタッキーフライドチキン(KFC)公式X(旧Twitter)です。 「公式が病気」「中の人は大丈夫か?」と心配されるほど、日本のアニメ画像や意味不明な画像を連投し、時には数百万回以上表示されるほどの大バズりを記録しています。 特に日本のユーザーにとっては、呪術廻戦やドラゴンボールチェンソーマンといった馴染み深いアニメネタが使われていることで、「なぜスペインでこれが?」と興味を惹かれる人が急増しているのです。 今回は、世界で最も「狂っている」と称賛されるKFCスペイン公式Xの魅力と、なぜこれほどまでにバズるのか、その裏にある「シットポスティング」という戦略について詳しくお伝えします。

【事例】スペインKFCのXは何がヤバいのか?

スペインKFCのXアカウント@KFC_ES)を見たことがありますか? 普通、大企業の公式アカウントといえば、新商品のPRやキャンペーン情報が美しくデザインされたヘッダー画像が設定されているものです。 しかし、彼らのアカウントはヘッダー画像が設定されていなかったり、あまりに質素だったりと、ページを開いた瞬間から「やる気がないのか?」とツッコミたくなるような「雑さ」が漂っています。 一目見ただけで「ただの企業アカウントではない」ことが伝わるこの「緩さ」こそが、彼らのスタイルの入り口なのです。 では、実際にどのような投稿が日本のファンの心をつかみ、世界中で話題になったのか、具体的な事例を見ていきましょう。

チェンソーマン「レゼ」や東方Projectのダンス動画

日本で大きな話題となったきっかけの一つが、漫画・アニメ『チェンソーマン』に登場するキャラクター、レゼに関連したミーム動画への便乗です。 ネット上では、レゼが踊るファンメイドの動画(元ネタは『東方Project』の十六夜咲夜のダンス動画とされることもあります)が流行していましたが、なんとKFCスペイン公式がこれに乗っかりました。 公式が投稿したのは、KFCの店舗を背景に、鶏(チキン)が軽快にステップを踏んで踊るという、シュール極まりない動画です。 「公式がこれやるの?」「文脈が理解できないけど面白い」と、日本を含む世界中のユーザーからツッコミと称賛が殺到しました。

ドラゴンボールやナルト、呪術廻戦ファンも反応

KFCスペインのアニメ愛は止まりません。『NARUTO -ナルト-』の有名なシーン、サスケがイタチに壁に押し付けられる場面のコラージュ画像も投稿されています。 本来ならイタチがいる場所にカーネル・サンダースの顔が合成され、「お前にはソースが足りない」といったセリフを連想させるようなキャプションで、ファンを爆笑させました。

さらに、彼らの守備範囲はメジャー作品だけにとどまりません。 『ジョジョの奇妙な冒険』や『チェンソーマン』(ポチタならぬ「ポチキン」)はもちろんのこと、なんとひぐらしのなく頃にのようなコアなファンを持つ作品にまで触れています。

『ひぐらし』のキャラクター、竜宮レナが登場したり、作中のゴミ山に捨てられたカーネル人形(通称ケンタくん)のエピソードを認知していたりと、その知識量は「ガチのオタク」レベル。「まさか公式がここまで知っているとは」と、日本のネットユーザーを驚愕させ続けているのです。

「私は72%のチキンでできている」

アニメネタだけでなく、意味不明な「怪文書」や画像も人気の秘訣です。 例えば、円グラフの画像と共に投稿されたのは、「Other people(他人)」と「Pollo(チキン)」の割合を示した図。 そこには「私は72%のチキンでできている」という意味の分からない主張が込められていました。

また、カーネル・サンダースの画像をAIで美化して「イケメンすぎるカーネル」を投稿したり、ベッドで半裸の筋肉質なカーネルが「おはよう」と挨拶してきたりと、ブランドの創業者を徹底的に「素材」として遊んでいるのです。

なぜバズる?「カオスな投稿(シットポスティング)」戦略の正体

なぜ、世界的な大企業であるKFCの公式アカウントが、このような「質の低い」「意味不明な」投稿を繰り返すのでしょうか? 実はこれ、「シットポスティング」と呼ばれる、高度なインターネット・コミュニケーション戦略の一種なのです。

シットポスティングとは?

シットポスティングとは、直訳すると『粗悪な投稿』や『クソ投稿』といった意味になりますが、インターネットスラングとしては「あえて低品質で、皮肉が効いており、文脈を無視した投稿をすること」を指します。 その目的は、タイムラインに意図的な『違和感』を生み出したり、最小限の労力で最大の反応を引き出したりすることにあります。 美しい商品写真や、丁寧に作られたPR動画とは対極にある、「雑コラ(雑なコラージュ画像)」「脈絡のないミーム」などがこれに当たります。 KFCスペインは、このシットポスティングを企業アカウントとして堂々と行っている「熟練のシットポスター」として、ネット住民から一目置かれているのです。

「若者ぶる企業」へのアンチテーゼ

SNSを利用する多くの若者は、企業が流行りの言葉を使って無理やり会話に入ってこようとする「若者に迎合したマーケティング」に違和感を抱いています。 しかし、KFCスペインのアカウント運用担当者(コミュニティマネージャー)は、商品を無理に売り込むのではなく、「ただのネット住民の一人」として振る舞っています。 「今日はお気に入りのミームがないから投稿はお休み」とツイートしたり、競合他社をネタにしたりする姿勢は、ユーザーにとって「広告」ではなく「面白いコンテンツ」として受け入れられます。 この「商売っ気のなさ」と「ネット民と同じ目線」こそが、圧倒的なエンゲージメント(いいねやリポスト)を生み出しているのです。

日本の企業が参考にできるポイントと注意点

ケンタッキー・フライド・チキン ロゴ

KFCスペインの成功を見ると、「日本の企業ももっとふざければいいのに!」と思うかもしれません。 しかし、ここには文化的な背景の違いや、日本特有の事情も関係しています。

日本における「カーネル・サンダース」の特殊性

実は、カーネル・サンダースの人形がこれほど多くの店舗に置かれているのは、日本だけということをご存知でしょうか? 海外、特にアメリカ本国では、カーネル人形はほとんど見かけません。 そのため、海外のアニメファンは、日本のアニメ(『銀魂』や『ひぐらしのなく頃に』など)にカーネル人形が頻繁に登場したり、ネタにされたりしているのを見て、「なぜ日本のアニメにはKFCのおじさんがこんなに出るんだ?」と不思議に思っていたそうです。 KFCスペインは、この「日本のアニメでカーネルがいじられている」という事実に着目し、それを逆輸入する形でネタにしています。 つまり、日本のオタク文化へのリスペクトが根底にあるのです。

「オタクバーガー」に見る日本への愛

スペイン KFC LOS OTAKU お祝い

(出典:KFC Restaurants Spain

彼らの日本愛は本物で、なんと「Otaku Burger(オタクバーガー)」という商品を実際に開発してしまったこともあります。 ポスターには「オタク」という日本語が書かれ、テリヤキソースを使用したこの商品は、「日本ではクリスマスにKFCを食べる」という独自の文化にインスパイアされたものでした。 ただふざけているだけでなく、しっかりと日本の文化を調査し、文脈を理解した上でネタにしている点が、日本のユーザーからも愛される理由でしょう。

日本企業が真似するのは危険?

とはいえ、日本の企業公式アカウントが突然、脈絡のない「シットポスト」を連発するのはリスクが高いと言えます。 KFCスペインの場合、スペインのネットコミュニティ自体にシットポスティングを楽しむ文化が根付いているという背景があります。 日本では「不真面目だ」「公式が乱心した」と炎上する可能性もあるため、担当者のキャラクター設定や、フォロワーとの関係性を慎重に築く必要があります。 しかし、「完璧な宣伝」よりも「人間味のあるコミュニケーション」が支持されるという点は、日本のSNS運用でも大いに参考になるはずです。

ケンタッキー片手に公式Xをチェックしてみよう

今回は、KFCスペイン公式Xがなぜこれほどまでにバズっているのか、その理由を日本アニメシットポスティングの観点から解説しました。 彼らの投稿は、一見すると「狂気」ですが、その裏にはネット文化への深い理解と、ユーザーを楽しませたいというサービス精神が詰まっています。 もし、タイムラインに流れてくる広告に疲れてしまったら、ぜひ一度、KFCスペインのアカウント(@KFC_ES)を覗いてみてください。 そこには、国境を越えて笑える「最高にクールな悪ふざけ」が待っています。 そして、次にケンタッキーを食べる時は、スペインの彼らが愛してやまない「日本のKFC文化」を、少し誇らしく感じながら味わってみてはいかがでしょうか。

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