「iPhoneが使えなくなる?」「Androidが危険になる?」。最近、SNSやニュースで「スマホ新法」という言葉を目にする機会が増え、不安を感じている方も多いのではないでしょうか。この法律は私たちのスマートフォン利用に大きな影響を与える可能性があり、その動向に注目が集まっています。そこで今回は、この「スマホ新法」とは一体何なのか、どのような危険性があるのか、そして私たちのスマートフォンがどう変わるのかについて、詳しく解説していきます。
スマホ新法とは?いつから施行される?
「スマホ新法」は、正式名称を「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」と言います。この法律は、AppleやGoogleといった少数の巨大IT企業が、OS、アプリストア、ブラウザ、検索エンジンなどの「特定ソフトウェア」市場を独占または寡占している現状を是正し、競争を促進することを目的として制定されました。
現在、スマートフォンのアプリはAppleのApp StoreやGoogleのGoogle Playといった特定のプラットフォームからのみダウンロードが許可されており、開発者はこれらのプラットフォームが設定する手数料(最大30%)を支払う必要があります。この独占的な状況は、新規企業の市場参入を阻害し、価格の高止まりやイノベーションの停滞につながる可能性があると指摘されてきました。
スマホ新法は、このような課題を解決するため、指定された事業者に対して、他のアプリストアの提供を妨げないこと、モバイルOSの機能利用を妨げないこと、他の課金システムの利用を妨げないこと、そして自社サービスを検索結果で不当に優遇しないことなどを義務付けています。
この法律は、2025年12月18日に全面施行される予定です。対象となるのは、国内の月間利用者が4,000万人を超える特定ソフトウェアを提供する事業者であり、現時点ではAppleとGoogleがこれに該当します。
スマホ新法がもたらす危険性とは?
スマホ新法の導入には、ユーザーの利便性向上や市場の活性化といったメリットが期待される一方で、大きな危険性も指摘されています。
最も懸念されているのが、セキュリティリスクの増大です。現在、App Storeに並ぶアプリはAppleの厳しい審査を通過したもののみであり、これによりユーザーはウイルス感染や詐欺アプリのリスクから保護されてきました。しかし、スマホ新法によってAppleの審査を通らないサードパーティ製のアプリストアやアプリのインストールが可能になることで、悪意のあるアプリが流通する可能性が高まります。
過去にEUでは、同様の法律が施行された結果、詐欺アプリやポルノ系のアプリが流通した事例が報告されています。これらのアプリは、ユーザーの個人情報やクレジットカード情報を抜き取ったり、スマートフォンを不正に監視・操作したりする危険性があります。デジタルリテラシーが高くないユーザーや子どもたちが誤って危険なアプリをダウンロードしてしまう可能性も懸念されています。
また、ブラウザの選択肢が増えることについても、信頼性の低いブラウザを使用することで、入力したパスワードや個人情報が抜き取られるリスクも指摘されています。
さらに、青少年保護の観点からも問題があります。フィルタリング機能やアプリの制限が難しくなる可能性があり、子どもたちが不適切なサイトや暴力・性的コンテンツに容易にアクセスできるようになることも危惧されています。
iPhoneにどのような影響がある?
スマホ新法は、特にAppleのiPhoneに大きな影響を与える可能性が高いとされています。
まず、Appleが提供するApp Store以外のサードパーティ製アプリストアからのアプリダウンロードが解禁されます。これにより、App Storeの厳しい審査を通らなかったアプリや、よりニッチなアプリが登場する可能性があります。また、アプリ内課金についても、Appleのプラットフォームを介さずに直接開発者のサイトで決済が可能になる選択肢が生まれるかもしれません。これにより、開発者の手数料負担が軽減され、アプリの価格が下がる可能性も期待されます。
一方で、iPhoneの連携機能や既存の便利な機能が制限される可能性も指摘されています。EUでは、同様の法律であるデジタル市場法(DMA)の施行後、iPhoneとMacの画面を共有する「iPhoneミラーリング」機能が提供されなくなりました。これは、AppleがOS機能の開放を義務付けられた結果、他社にその技術を提供することによるセキュリティリスクを考慮し、機能自体を提供しないという判断に至ったためです。
現時点では、AirDropやAirPodsの自動切り替えといったApple製品間のシームレスな連携機能は、EUでも使用可能です。しかし、今後Appleがこれらの機能についても、セキュリティ上の懸念や技術開放の義務を理由に制限する可能性はゼロではありません。また、iPhoneに標準搭載されている写真アプリなどの一部純正アプリが、ユーザーの意図しない削除からデータを保護するために削除できない仕様になっていますが、これも「独占」と見なされ、削除可能にすることが求められるかもしれません。もしそうなれば、誤って重要なデータを消してしまうリスクが高まります。
データ移行の簡易化も期待されており、iPhoneからAndroid、またはその逆のデータ移行がこれまでより簡単になるかもしれません。
Android端末は大丈夫?
スマホ新法の対象はAppleだけでなく、Googleも含まれています。そのため、Android端末もこの法律の影響を受けます。
しかし、Androidは元々、Google Play Store以外のアプリストア(例:Galaxy Storeなど)からのアプリインストールを許可するなど、比較的オープンなエコシステムを持っています。そのため、iPhoneほど劇的な変化ではないかもしれません。
それでも、Googleが提供する検索エンジンでの自社サービス優遇の禁止など、他の規制はAndroidユーザーにも影響を与える可能性があります。また、Androidにおいても、サードパーティ製アプリストアが増えることで、iPhoneと同様に悪意のあるアプリの流通やセキュリティリスクの増大は懸念されます。Androidユーザーも、これまで以上にアプリの安全性には注意を払う必要が出てくるでしょう。
スマホ新法が施行された後の対策
スマホ新法の施行後、私たちのスマートフォンを安全かつ快適に利用するためには、いくつかの対策を講じることが重要です。
まず、セキュリティ意識をこれまで以上に高めることが不可欠です。
パスワードの強化と使い回しの停止
推測されにくい複雑なパスワードを設定し、複数のサービスで同じパスワードを使い回さないようにしましょう。パスワードマネージャーの利用も有効です。
二段階認証の設定
可能な限り二段階認証を設定し、不正アクセスを防ぎましょう。
アプリの権限を慎重に確認
アプリをインストールする際や使用する際に求められる「連絡先へのアクセス」や「マイクの使用」などの権限許可について、本当にそのアプリに必要かどうかをよく考え、不要な権限は許可しないようにしましょう。
怪しいアプリストアやWebサイトからのダウンロードを避ける
AppleやGoogleの公式ストア以外のアプリストアからアプリをダウンロードする際は、特にその信頼性を確認することが重要です。知名度が低い、または不審な挙動をするアプリストアは避けるのが賢明です。
最新のOSにアップデート
オペレーティングシステムは常に最新の状態に保ち、セキュリティパッチが適用されていることを確認しましょう。
家族、特に子どもへの教育
デジタルリテラシーが高くない家族や子どもたちに対して、危険なアプリやサイトの見分け方、個人情報の扱い方について教える必要があります。
次に、情報に惑わされないようにすることも大切です。スマホ新法に関する不正確な情報や憶測が飛び交う可能性がありますが、AppleやGoogleの公式発表、公正取引委員会などの信頼できる情報を確認するようにしましょう。
施行直後に新しいサードパーティ製アプリストアやサービスに飛びつくのではなく、しばらく様子を見て、安全性が確立されているか、他のユーザーの評判はどうかなどを確認する「様子見」の姿勢も推奨されます。
海外での状況は?
スマホ新法は、欧州連合(EU)で2024年3月から施行されている「デジタル市場法(Digital Markets Act、DMA)」を参考にしています。そのため、EUでの状況は、日本でのスマホ新法がもたらす影響を予測する上で重要な先行事例となります。
EUのDMA施行後、Appleはサードパーティ製アプリストアの解禁や、アプリ内課金の手数料引き下げ(最大17%)といった対応を行いました。しかし、ユーザーの間でのサードパーティ製ストアの利用は、全体の数%に留まっているという現状が報告されています。これは、App Storeの安全性への信頼が依然として高いことなどが理由と考えられます。
一方で、DMAの施行によって、iPhoneミラーリングなど、Apple製品間の連携機能の一部がEU圏内で利用できなくなりました。これは、AppleがOS機能の開放を求められた際に、セキュリティ上の懸念から当該機能の提供自体を停止するという判断を下したためです。AirDropやAirPodsの自動切り替え機能は引き続き利用可能ですが、今後どうなるかは不透明な部分もあります。
EUの事例を見ると、法律の目的である「競争促進」が必ずしもユーザーの望む形での利便性向上に直結しないケースがあることがわかります。セキュリティリスクの増大や、一部機能の制限といったデメリットが顕在化しており、EUでのDMAは「失敗に終わっている」という見方や「賛否が割れている状態」という意見も出ています。日本はiPhoneのシェアが世界的に見ても高い水準にあるため、EUとは異なる独自の動向が見られる可能性も指摘されています。
スマホ新法で私たちの未来のスマホはどうなる?
「スマホ新法」は、AppleやGoogleといった巨大IT企業の独占状態を是正し、競争を促進することで、多様なアプリやサービスの登場、そして価格の引き下げにつながる可能性があります。ユーザーにとっては、これまで以上に多くの選択肢が提供され、より低価格で質の高いサービスを享受できる未来が期待されます。例えば、よりマニアックな用途に特化したアプリや、これまでApp Storeの審査基準に合わなかった革新的なサービスが生まれるかもしれません。また、Apple WatchとAndroid端末の連携など、デバイス間の垣根が低くなる可能性も考えられます。
しかし、その一方で、セキュリティリスクの増大や、iPhoneの便利な連携機能の一部が制限されるといったデメリットも懸念されています。特に、公式ストア以外からのアプリダウンロードが可能になることで、ユーザー自身がアプリの安全性を判断するリテラシーがこれまで以上に求められるようになるでしょう。
この法律が最終的にユーザーにとって「便利」と「安全」のどちらに傾くかは、今後の運用やApple、Googleの対応、そして私たちユーザー自身の行動にかかっています。過度に心配する必要はありませんが、新しい情報に注意を払い、自身のスマートフォン利用環境を見直す良い機会と捉えることが大切です。