AIが水を飲む?チャットGPTの裏側にある水資源問題と消費の真実

AIデータセンター冷却イメージ

チャットGPT(ChatGPT)」や「Gemini(ジェミニ)」など、私たちの生活にすっかり浸透したAI(人工知能)。 質問すればすぐに答えてくれる便利なAIですが、「AIが水をガブガブ飲んでいる」という話を聞いたことはありませんか? 「デジタルな存在なのに、なぜ水が必要なの?」と不思議に思うかもしれません。 実は、AIの裏側では、私たちの想像を超える大量の水資源が消費されており、世界中で新たな課題となっています。 そこでこの記事では、AIやテック産業全体でなぜ水が必要なのか、どれくらいの量が使われているのか、そして今後どのような対策が必要なのかを分かりやすくお伝えします。

AIが水を「飲む」って本当?冷却と発電の深い関係

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AIはもちろんデジタルの存在ですから、人間のように喉が乾いて水をゴクゴク飲むわけではありません。 しかし、AIを動かすためには物理的な「水」が不可欠なのです。その主な理由は、「熱」の処理「電力」の生成にあります。

データセンターの「熱」を冷やすための水

私たちがスマホやPCでAIを使うとき、その計算処理は手元の端末ではなく、遠く離れた場所にある巨大なデータセンターで行われています。 データセンターには、高性能なサーバー(コンピューター)が何千、何万台も並んでいます。 AIが複雑な学習や推論を行う際、これらのサーバーはフル稼働し、ものすごい熱を発します。 家庭のPCでも動画編集などをするとファンが回って熱くなりますが、データセンターではその規模が桁違いで、サーバーラック1つでバーベキューグリル6台分もの熱を出すこともあると言われています。

この熱を放置するとサーバーが故障してしまうため、常に冷却し続けなければなりません。 そこで活躍するのがです。 多くのデータセンターでは、水冷システム気化熱(水が蒸発するときに熱を奪う性質)を利用した冷却塔を使って、効率的にサーバーを冷やしています。 この冷却プロセスで、大量の水が蒸発して空気中に消えていくため、あたかも「AIが水を消費している」と言われるのです。

電力を生み出すためにも水が必要

さらに、AIを動かすための「電力」を作るのにも水が使われています。 火力発電や原子力発電では、水を沸騰させて蒸気にし、タービンを回して発電します。そして使い終わった蒸気を再び水に戻す冷却過程でも、大量の水が必要になります。 つまり、データセンターで直接使う水だけでなく、電力消費を通じて間接的にも大量の水を必要としているのです。

ペットボトル1本分!?AIとの会話で消費される驚きの水量

ペットボトル

では、具体的にどれくらいの水が使われているのでしょうか? 私たちが何気なくAIを使っているその瞬間にも、水は消費されています。

会話や学習に使われる水の量

ある研究によると、生成AIと20〜50回程度のやり取り(質問と回答)をするだけで、約500mlのペットボトル1本分の水が消費されると推定されています。 「たったそれだけ?」と思うかもしれませんが、世界中で何億人ものユーザーが毎日利用していることを考えると、その総量は膨大です。 さらに、AIが回答できるようになるための「学習(トレーニング)」の段階でも大量の水を使います。

例えば、二世代前のモデルである「GPT-3」を学習させる期間でさえ、約70万リットル(日本人の約5000人分の1日の生活用水に相当)もの真水が消費されたという試算があります。

しかし、これはあくまで数年前の過去のモデルの話です。 現在主流の「GPT-5」系列など、AIは世代を重ねるごとに性能が上がり、計算量も膨大になっています。それに伴い、消費する水資源もさらに増えている可能性が高いのです。 実際、マイクロソフト社の報告によると、2020年から2023年のわずか3年間で、企業の水使用量が87%も増加したというデータもあります。 技術の進化と共に、AIの「喉の渇き」も留まるところを知りません。

急増するデータセンターの水消費

アメリカでは、データセンターの年間水使用量が660億リットルに達したという報告もあり、これはわずか数年で急激に増加しています。 GoogleMicrosoftといったテック大手も環境レポートを公開しており、AI需要の拡大に伴って水の使用量が前年比で20%以上、場合によっては80%以上も増えているケースが報告されています。 AIが進化し、より複雑な処理が可能になればなるほど、必要な計算能力と電力、そして水の量は増えていくと予測されています。

世界中で水不足が加速?データセンター建設が招く地域対立

データセンターイメージ

「水なら雨が降れば元通りになるのでは?」と思うかもしれませんが、問題はそう単純ではありません。 AI産業による水の大量消費は、地域の水不足住民との対立を引き起こすリスクがあります。

水資源が乏しい地域での建設ラッシュ

データセンターは、土地代や電気代が安い場所、あるいは税制優遇がある場所に建設されることが多いですが、そこが必ずしも水が豊富な地域とは限りません。 実際、アメリカのアリゾナ州やテキサス州のような乾燥地帯、あるいは南米のチリなど、もともと水不足が懸念されている地域にも多くのデータセンターが建てられています。 こうした地域で企業が大量の地下水を汲み上げたり、水道水を使ったりすることで、地元の農業用水や生活用水が圧迫されるという問題が起きています。

「日本は水が豊富」は誤解?

「日本なら雨も多いし大丈夫」と考える人も多いでしょう。 しかし、専門家によると「日本は水資源が豊富というのは誤解」だといいます。 日本の川は急流ですぐに海へ流れ出てしまうため、雨水を陸地に留めておくのが難しく、人口あたりの使える水の量は世界平均の半分程度とも言われています。 実際に、日本国内でもデータセンターの建設ラッシュが起きていますが、地下水の汲み上げによる地盤沈下や、地域の水源への影響を懸念する声も上がり始めています。

どんな水でも良いわけじゃない!真水と「超純水」の必要性

超純水イメージ

AI産業で使われる水には、もう一つ重要なポイントがあります。それは「質」です。 海水をそのまま使えば良いのではないかと思われがちですが、そう簡単にはいきません。

冷却には「きれいな水」が使われる

データセンターの冷却システムは繊細で、不純物が多い水を使うと配管が詰まったり、腐食したりする原因になります。 そのため、多くの施設では飲料水レベルのきれいな水道水(上水)が使われています。 私たちが飲むことができる貴重な真水が、機械を冷やすために大量に使われているという現状が、批判の対象になることもあります。

半導体には「超純水」が必要

さらに、AIの頭脳である半導体(チップ)の製造には、さらに純度の高い水が必要です。 ナノレベルの微細な回路を作る半導体工場では、微小な不純物も許されません。 そのため、不純物を極限まで取り除いた「超純水」と呼ばれる、飲み水よりもはるかに純度の高い水を使って、チップを洗浄します。 この超純水を作るためには、元の水の何倍もの量の水が必要になるため、半導体工場もまた、巨大な水消費施設となっているのです。

AIだけじゃない!半導体製造にも不可欠な洗浄プロセス

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AIと切っても切れない関係にあるのが、計算処理を行う半導体(GPUなど)です。 この半導体を作る過程でも、水は湯水のように使われています。

洗浄が命の半導体製造

半導体の製造工程は、シリコンウェハーという基盤の上に回路を焼き付け、削り、洗う作業の繰り返しです。 この「洗う」工程で大量の水を使います。 TSMCなどの大手半導体メーカーが進出する地域(例えば日本の熊本など)で地下水への関心が高まっているのは、工場が毎日数万トン規模の水を必要とするからです。 AIブームによって高性能なチップの需要が高まれば、それを製造するための水需要も必然的に跳ね上がります。 つまり、AIを使う「運用」の段階だけでなく、AIを作る「製造」の段階から、すでに水資源への負荷は始まっているのです。

このままでは枯渇する?企業が進める水質源対策とSDGs

雪国

AIによる水消費の増加は避けられない未来ですが、企業側もただ手をこまねいているわけではありません。SDGs(持続可能な開発目標)ESG(環境・社会・ガバナンス)経営の観点から、テック大手は様々な対策に乗り出しています。

水の再利用と循環システム

多くのデータセンターでは、一度使った水を捨てずに冷やして何度も使う「循環型冷却システム」の導入が進んでいます。 また、GoogleやAmazon、Microsoftなどは、「ウォーター・ポジティブ」という目標を掲げています。 これは、事業で消費する以上の水を、再生水の使用や水源保全活動などを通じて地域社会に還元しようという取り組みです。 工場内での排水リサイクル率を高めたり、雨水を活用したりする動きも加速しています。

建設場所や冷却方法の工夫

水を使わない冷却方法へのシフトも模索されています。 例えば、涼しい外気を取り込んでサーバーを冷やす空冷システムを採用すれば、水の使用量を減らすことができます(ただし、電力消費が増えるというトレードオフがあります)。 また、カナダのモントリオールや北欧のような、年間を通じて気温が低い地域にデータセンターを建設することで、自然の冷気を活用し、水と電力の両方を節約しようとする動きもあります。

AIと共存するために私たちが知っておくべき未来の選択

AIは私たちの生活を豊かにし、業務を効率化してくれる素晴らしい技術ですが、その裏側には「水」という地球の共有財産が使われていることを忘れてはいけません。

AIを使うなということではありませんが、「検索や生成には環境コストがかかっている」という事実を知っておくことは大切です。 無駄なプロンプト(指示)を減らして効率的にAIを使ったり、環境に配慮している企業のサービスを選んだりすることも、私たちにできる一つのアクションかもしれません。 また、企業や自治体がデータセンターを誘致する際には、経済効果だけでなく、地域の水資源への影響をしっかりと議論し、透明性を持って管理していくことが求められます。

テクノロジーの進化と環境保全のバランスをどう取っていくのか。 AIがもたらす未来が、水不足で乾いたものにならないよう、技術開発と資源管理の両面からのアプローチが今まさに進められています。 私たちユーザーも、その行方に注目していきましょう。