世界モデルとは?AIの次なる革命、ChatGPTとの違いや将来性を解説
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「AIといえばChatGPTやGemini」と思っていませんか? 実は今、AI業界で「生成AIの次」として熱烈な注目を浴びている技術があります。 それが『世界モデル(ワールドモデル)』です。
「世界モデルってなに?LLMとは違うの?」 「NVIDIAやGoogleが開発しているって本当?」 そんな疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
じつは、この技術が進化することで、これまでのAIでは難しかった「ロボットの器用な動作」や「完全な自動運転」が実現に近づくと期待されています。 そこでこの記事では、世界モデル(ワールドモデル)とは何なのか、ChatGPTとの違いや何ができるのか、そして松尾研などの最新動向も含めて分かりやすくお伝えします。
世界モデル(ワールドモデル)とは?AIが持つ「脳内シミュレーター」

世界モデル (ワールドモデル/World Models)とは、一言でいうと「世界がどのように動くかを理解し、未来をシミュレーションするAI」のことです。
私たち人間は、コップから手を離せば「床に落ちて割れる」と想像できますし、車を運転していてボールが飛び出してきたら「子供が飛び出してくるかも」と予測しますよね。 このように、頭の中に「世界の仕組み(物理法則や常識)」の模型(モデル)を持ち、行動する前に結果を脳内でシミュレーションする能力、これこそが世界モデルです。
始まりは「夢を見るAI」の研究
この概念自体は古くからありましたが、AI業界で大きく注目されたのは、2018年に発表された論文「World Models」がきっかけです。 この研究では、AIがレースゲームなどの環境を学習し、AI自身の頭の中(夢の中)でコースや状況をシミュレーションして、運転の練習を行うことができました。
つまり、現実世界で何度も失敗しなくても、AIが「脳内」で何千回もシミュレーションを行い、最適な行動を学習できるようになったのです。
物理法則や空間を理解する「空間知能」
最近では、著名なAI研究者であるフェイフェイ・リー氏(World Labs)などが、これを「空間知能(Spatial Intelligence)」と呼び、さらに発展させています。 単に言葉を操るだけでなく、3次元の空間や物理的な動きを理解するAIへと進化しているのです。
世界モデルで何ができるのか?

では、具体的に世界モデルを使うとどんなことができるようになるのでしょうか。 主な活用例や可能性を見てみましょう。
1. ロボットが「失敗」を脳内で予習できる
これまでのロボット制御では、現実世界で何度も動かしてデータを集める必要がありました。しかし、現実で失敗するとロボットが壊れたり、周りを傷つけたりするリスクがあります。世界モデルを使えば、ロボットはデジタル空間(AIの脳内)で「こう動けば失敗する」「こうすれば掴める」という試行錯誤を高速で行えます。 これにより、工場や家庭で働くロボットの開発スピードが劇的に加速すると言われています。
2. 自動運転の安全性が飛躍的に向上
自動運転 の分野でも、世界モデルは必須の技術となりつつあります。 たとえば、NVIDIAは自動運転車のトレーニングに世界モデルを活用しています。 「もし対向車がスリップしたら?」「もし嵐で視界が悪かったら?」といった、現実では頻繁に起こらない危険な状況をAIが脳内で生成・予測し、それに対処する方法を事前に学習できるのです。
3. 物理法則に従ったリアルな動画生成
最近話題の動画生成AI、たとえばOpenAIの『Sora』やGoogleの『Veo』なども、実は世界モデルの一種として捉えられています。 これらは単に綺麗な絵を繋げているのではなく、光の当たり方や物の動きといった「物理的な整合性」を計算して動画を作っています。 将来的には、テキストで指示するだけで、完全に操作可能な3Dゲームの世界や映画のようなシミュレーション空間を作れるようになると期待されています。
ChatGPTやGeminiなどのLLMとの違いは?

「ChatGPTも賢いけれど、何が違うの?」と思いますよね。チャットGPTやGoogleのGeminiは、「LLM(大規模言語モデル)」と呼ばれ、主に「言葉」や「知識」を扱います。 一方、世界モデルは「物理」や「因果関係」を扱います。この2つの違いを整理しましょう。
違い1. 「言葉の確率」か「世界のシミュレーション」か
LLM (ChatGPTなど)は、膨大なテキストデータを学習し、「次にくる単語は何か?」を確率的に予測しています。 対して世界モデルは、「次に世界はどう変化するか?」を予測します。 Meta社のAI責任者であるヤン・ルカン氏は、「LLMは物理的な世界を経験していないため、猫ほどの賢さも持っていない」と指摘しています。 LLMは「コップが落ちたら割れる」という知識は持っていますが、実際に3次元空間でコップがどう転がり、破片がどう飛び散るかという物理現象を感覚として理解しているわけではないのです。
違い2. 静的な情報 vs 動的な因果関係
LLM は、インターネット上のテキストや画像といった「静的」なデータから学びますが、世界モデルは動画やセンサーデータなどから、時間経過に伴う「動的」な変化や因果関係を学びます。 例えば、画像を見て「これは猫とグラスだ」と認識するのが従来のAIなら、「猫が動くとグラスを押してしまい、床で割れるだろう」と未来の展開を動画のように予見できるのが世界モデルの強みです。
補足:両者は統合されていく流れに
とはいえ、これらは対立するものではありません。東京大学の松尾研(松尾・岩澤研究室)のコミュニティでも議論されているように、今後はLLMの言語能力と世界モデルの物理理解能力を組み合わせた「マルチモーダル基盤モデル」の研究が進んでいます。 言語で指示を出し、世界モデルがそれを物理的に実行する、といった連携が進んでいくでしょう。
なぜ今、NVIDIAやGoogleがこぞって注目しているのか

2024年から2025年にかけて、なぜ急に「世界モデル」という言葉を耳にするようになったのでしょうか。 それには、AI開発における明確な理由があります。
理由1. テキストデータの限界と「身体性」の獲得
現在のAI(LLM)は、Web上のテキストデータをあらかた学習し尽くしつつあると言われています。 これ以上AIを賢くするためには、テキスト以外の情報、つまり現実世界の「動画」や「物理的な経験」を学習させる必要があります。Googleの『Genie』や『Veo』、NVIDIAの『Cosmos』といった最新モデルは、まさにこの物理世界を理解するために開発されています。
理由2. AIが「現実世界」で働くために必須だから
これまでのAIはPCやスマホ画面の中だけで動いていれば十分でした。 しかし、これからはAIが搭載されたロボットやドローン、自動運転車が、私たちの住む現実空間で活動するようになります。 現実世界で安全に動くためには、AI自身が「ぶつかったら痛い」「重いものは落ちる」といった物理法則(世界モデル)を内蔵していなければなりません。NVIDIAが「物理AI(Physical AI)」やロボット向け基盤モデルに力を入れているのは、この巨大な市場を見据えているからです。
理由3. 日本企業にとっても大きなチャンス
AIコンサルティング企業のフラックスによれば、2025年のAIトレンドの1つとして世界モデルが挙げられています。 特に日本は製造業やロボット技術に強みがあるため、工場での自動化やサービスロボットなど、フィジカルなAI活用(オンプレミスAIやエッジAI)において、世界モデルの恩恵を大きく受ける可能性があります。
「物理」を理解したAIが私たちの生活を変える
ここまで見てきたように、世界モデル(ワールドモデル)は、AIが単なる「言葉のプロ」から「現実世界を理解するパートナー」へと進化するための重要な鍵です。
これまでは画面の中の話だったAIが、これからは自動運転車としてあなたを家まで送り届けたり、家事ロボットとしてコップの水を注いでくれたりと、物理的な手助けをしてくれるようになるでしょう。 また、NVIDIAやGoogle、OpenAIといったテック企業だけでなく、日本の松尾研や製造業もこの分野に注力しており、今後ますます身近な技術になっていくはずです。
AIの進化は、「知能」のフェーズから「身体と空間」のフェーズへ。 私たちの生活をより便利に、安全にしてくれる「世界モデル」の今後の発展に、ぜひ注目してみてください。
みんなのらくらくマガジン 編集長 / 悟知(Satoshi)
SEOとAIの専門家。ガジェット/ゲーム/都市伝説好き。元バンドマン(作詞作曲)。SEO会社やEC運用の経験を活かし、「らくらく」をテーマに執筆。社内AI運用管理も担当。







