最近、ゲームコミュニティで大きな話題となっているのが、大手PCゲームプラットフォーム Steamに導入された「言語別のレビュー評価」機能 です。この新機能により、これまでは見えにくかった各国のユーザー評価の傾向が可視化され、特に「日本人のレビューが他言語に比べて辛口である」という実態が浮上しました。なぜ日本のゲーマーの評価は厳しいと言われるのでしょうか?その背景にある文化的な要因や、それがゲーム業界に与える影響について、詳しく見ていきましょう。
Steamとは?世界のゲーマーが集うプラットフォーム
(出典:Steam)
Steam(スチーム) は、アメリカのValve社が運営する、PCゲームのダウンロード販売プラットフォームです。世界中のゲーマーが利用しており、数多くのゲームタイトルが提供されています。近年では、AIやディープラーニングといった最新技術をゲーム開発にも応用するNVIDIA製のGPUが、高速な計算処理能力によって機械学習やディープラーニングのトレーニングに不可欠な存在となっており、Steam上で楽しめる高機能なゲームを支える重要な技術の一つでもあります。ユーザーはゲームの購入だけでなく、コミュニティ機能を通じてゲームの感想を共有したり、レビューを投稿したりすることができます。
Steamの言語別レビュー評価とは?
(出典:Steam)
2025年8月19日、Steamはユーザーレビューの表示システムをアップデートし、一部のゲームで「言語別のスコア」が表示されるようになりました。この変更により、これまではグローバルな総合評価のみだったものが、ユーザーが設定している言語に基づいた評価(例えば、日本語ユーザーには日本語レビューに基づいたスコア)が表示されるようになったのです。
この機能が適用されるのは、公開されているレビュー数が2000件を超え、かつ少なくとも一つの言語で200件以上のレビューがあるゲームです。Valveによると、この変更は、翻訳の問題、文化的なニュアンスの違い、ネットワーク接続の不良など、地域ごとの体験の差を反映させ、ユーザーがより十分な情報に基づいてゲームを購入できるよう支援するため の継続的な取り組みの一環であると説明しています。
日本のSteamレビューは他言語に比べて厳しい傾向に
(出典:Steam)
Steamの言語別レビュー機能が導入されて以来、日本のゲーマーコミュニティでは、「日本からのレビューは他国と比較して低評価が多く、辛口である」 という指摘が相次いでいます。
ある日本のストリーマーは、多くのゲームで日本のレビューが圧倒的に低評価であることを指摘しており、中国のレビューも同様に辛口の傾向があると言われています。過去のユーザー調査でも、日本のSteamユーザーは海外のユーザーと比較して、有意に多くの低評価レビューを残す傾向が確認されています。例えば、Dead by Daylightというゲームでは、世界全体での低評価レビューが約17%だったのに対し、日本からの低評価は約45%にものぼりました。
具体的なゲームタイトルでは、ストリートファイター6が日本以外の国では「非常に好評」と評価されているにもかかわらず、日本だけ「賛否両論」であったり、エルデンリングやアサシン クリード オデッセイ、モンスターハンターワイルズなども、日本での評価が他言語圏に比べて一段階低い傾向が見られます。
なぜ日本の評価は低いのか?その背景にある多角的な要因
日本のSteamレビューが他国と比べて低い傾向にあるのは、いくつかの要因が複合的に絡み合っていると考えられます。
「良いものは褒めないが、不満は表明する」というレビュー文化
多くの日本人ゲーマーは、ゲームが面白かったり満足したりしても、わざわざ高評価レビューを投稿しない傾向 があります。一方で、ゲームに不満を感じた場合には、積極的に低評価レビューを投稿する傾向が見られます。この「高評価不足」が、全体的な評価が辛口に見える一因となっています。
評価基準の厳しさ
日本では、「お金を払って購入した以上、良いものであるのは当たり前」 という潜在意識があるため、品質が良いことに対する評価が厳しくなりがちです。また、海外では「プレイできれば高評価」といった基準に対し、日本では「ものすごく感動する」レベルでないと高評価を付けない、といった文化的な違いも指摘されています。評価システムが「良い」か「悪い」の二択であるSteamにおいて、真ん中の評価を付けたい日本人が、不満があれば「悪い」に傾きやすい、という側面もあるかもしれません。
ゲーム内容やローカライズの品質への純粋な不満
日本の低評価レビューの中には、バグの多さ、ゲームバランスの悪さ、期待との乖離、そして翻訳の質の低さ(ローカライズの問題) など、ゲーム内容に対する具体的な不満が理由となっているものも多く見られます。特に「日本語対応」と書かれていても、機械翻訳のような不自然な文章では、ユーザーは「詐欺だ」と感じて低評価につながることもあります。
データ上の錯覚の可能性
日本では、積極的にレビューを投稿する文化が十分に根付いていない可能性も指摘されています。そのため、レビューを投稿する絶対数が少ないため、一部の強い不満を持つユーザーによる低評価が、あたかも全体の評価であるかのように目立ってしまっている 可能性も考えられます。
このような日本のレビュー文化が影響し、一部のゲーム開発者からは、開発初期段階やリリース当初に日本のユーザーからレビューされたくないという理由で、日本語対応を遅らせる事例もある と言われています。これは、日本のインディーゲーム開発者にとっても、ポジティブな口コミが得られにくいという課題を生んでいます。
自分の言語で評価を確認!レビュースコア設定の変更方法
(出典:Steam)
Steamの新しい言語別評価システムでは、デフォルトで自分の設定言語に基づいたスコアが表示されます。もし、「すべての言語に基づいた総合評価」 を確認したい場合は、Steamの設定から簡単に切り替えることが可能です。
具体的には、ストアの個人設定から「個人設定を編集」をクリックし、「Steamでの購入のすべてのレビューを含める」にチェックマークを入れる ことで、以前の総合レビュー表示に戻すことができます。また、各ゲームのストアページにある「言語別内訳を表示」のリンクをクリックすれば、言語ごとの詳細な評価を確認することも可能です。
日本の評価は全体のゲーム評価にどう影響する?
日本からのレビューが他国に比べて厳しい傾向にあることは明らかになりましたが、それが世界全体のゲーム評価に与える影響は限定的である という分析もあります。
ある簡易的な調査では、Steamの日本での売上トップ50作品において、日本のレビューが全体のレビュー件数に占める割合は小さく、特に大作ほどその傾向が顕著でした。例えば、日本人によるレビューが世界平均より8%低評価だったとしても、日本のレビューが全体に占める割合が4%程度であれば、世界全体の平均スコアに与える影響はわずか0.3%程度にしかなりません。
このことから、日本人が「辛口」であることは一つの文化的特徴として理解すべきですが、それが世界規模のゲーム評価に実質的な影響を及ぼす力はほとんどない と言えるでしょう。Steamのレビューシステムは国際的に統一された指標としては完璧ではなく、文化の違いを前提にデータを活用しようとしている、と見ることもできます。
日本のSteamレビュー文化とゲーム業界の未来
Steamの言語別レビュー機能によって明らかになった日本の「辛口」なレビュー文化は、日本のゲーマーの特性を浮き彫りにしました。日本人は、良いと感じたことに対しては積極的に評価やレビューをしない印象があり、不満があるときにレビューを投稿する傾向が強い です。しかし、この日本の評価傾向がゲーム全体の評価に与える影響は、実はそれほど大きくありません。
もちろん、低評価の中にはゲームの改善につながる建設的なフィードバックも多く含まれており、運営側にとっては貴重な情報源となるはずです。しかし、開発者のモチベーション向上や、日本語対応の促進のためにも、面白かったゲームには一言でも良いので高評価レビューを投稿する習慣を身につけること が、今後の日本のゲーム文化を豊かにする一歩になるかもしれません。