VTuber業界で注目を集めていた「VShojo」が突然の事業閉鎖を発表し、大きな波紋を呼んでいます。
「タレントファースト」を掲げ、ファンにとっては夢のような事務所に見えていたVShojoの裏側で一体何が起きていたのでしょうか。
今回は、VShojoの概要から、なぜこれほどの大騒動に発展したのか、タレントたちの告発、そして今後のVTuber業界に与える影響について詳しく見ていきます。
VShojoとは?
(出典:PR TIMES)
欧米を拠点としたVTuber事務所 VShojo(読み:ブイショージョ、日本ではV少女とも表記)は、2020年にアメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコで設立されたVTuber専門のタレント事務所です。北米を拠点とする初の主要VTuber事務所として知られていました。
「タレントファースト」の理念
VShojoは「タレントファースト」という方針を掲げ、所属VTuberが自身のキャラクターや著作権(IP)を保有できる仕組みを取り入れるなど、他の事務所にはない独自の取り組みを行っていたのが特徴です。モデル制作やグッズ展開、広告案件の提供など、タレントを支えるためのリソースも提供していました。
日本進出と拡大
2022年には日本にも進出し、ksonさんやNazunaさんといった人気タレントが加入しました。2024年には新たなVTuberグループ「NOVA」を立ち上げるなど、その勢いを拡大し、かつてはホロライブやにじさんじと並ぶVTuber業界の主要事務所の一つと見なされていました。
なぜVShojoは炎上したのか?
VShojoが炎上した主な理由は、複数の問題が複合的に絡み合っていると考えられます。
慈善寄付金の未払いと流用疑惑
炎上のきっかけとなったのは、人気VTuberのIronmouseさんが、ファンから集めた50万ドル以上(日本円で約7500万円)の慈善寄付金が、1年以上経っても寄付先の「Immune Deficiency Foundation(免疫不全財団)」に支払われていないことを告発したことでした。この寄付金は、VShojoが代理で寄付する形だったため、事務所がその手続きを担っていました。
VShojoのCEOであるJustin Ignacio氏は後に、会社が支出した資金の一部が慈善活動目的のものだったことを「後から知った」と釈明しましたが、Ironmouseさんのファンからは、彼が以前から寄付の目的を認識していた証拠が提示され、この釈明は虚偽であると指摘されました。慈善寄付金の着服は、アメリカでは重罪にあたる可能性があります。
タレントへの報酬未払い
Ironmouseさんの告発後、他の所属タレントからも未払いに関する告発が相次ぎました。
- ksonさんは、2023年9月から1年近くにわたり数千万円単位の報酬が支払われていないと明かしました。
- 以前所属していたVeibaeさんは、スポンサー収益やグッズ売上からの不当な取り分を要求された上、退社後もスポンサーからの支払いが未回収のままであること、会社から記念グッズ費用を請求されたが納品物が未完成だったことを暴露しています。
- Mint Fantomeさんも、アイドルグループデビュー計画の頓挫に加え、関連グッズの収益を受け取っていないと証言しました。
「タレントファースト」の欺瞞と内部問題
VShojoは「タレントファースト」を掲げていましたが、実際は高額な給料で友人関係のスタッフを大量に採用し、タレントへの支払いが後回しにされていた可能性が指摘されています。
- CEOがIronmouseさんやSilvervaleさんに対し、ハラスメント被害すら「ブランドを傷つけた」「他のタレントに迷惑」とタレントを軽視する言動があったと暴露されました。
- タレントと会社の間で結ばれた秘密保持契約(NDA)が、内部告発やタレント間の情報共有を困難にしていたことも問題視されました。
- 社内弁護士が資格執行状態だったことや、競合VTuber事務所、特にホロライブに対して社内資金を使って嫌がらせを行っていたことも暴露され、企業としての健全性が疑問視されました。
ksonさんの配信から見えた真実
(出典:PR TIMES)
Ironmouseさんの告発を受けて、ksonさんも緊急配信を実施し、自身も多額の報酬未払いがあること、そしてVShojoから脱退する意向を表明しました。
彼女は「何もかも嘘でした」と題した動画を投稿し、約1年間にわたる未払いの実態や、秘密保持契約(NDA)の存在、そしてVTuber業界に根付く慣習について詳細に語りました。
ksonさんの証言から、報酬の支払いタイミングが案件ごとに異なり、未払いの把握が困難であったこと、そしてNDAによってタレント間の契約情報共有が禁じられ、内部の問題が可視化されにくい状況が続いていたことが明らかになりました。
彼女は、VShojoが多額の資金を調達した後、友人を高額な給料で大量に採用し、その結果タレントへの支払いが後回しにされた可能性を指摘しています。また、資金が枯渇し始めた時期には、本社との連絡が一切つかなくなったと明かしました。
ksonさんは、会社がすでに契約を破っているため、タレントがNDAを破って告発しても訴えられる可能性が低いと判断したことを示唆し、自身も約1100万円の未払い分は戻ってこないだろうと諦めつつ、この現状を世に伝えることを選びました。彼女は、今回の騒動で「何が本当か分からない」という不信感を露わにしています。
VShojoの対応と広がる批判
VTuberたちの告発が相次いだ後、VShojoのCEOであるJustin “Gunrun” Ignacio氏は、X(旧Twitter)で事業閉鎖を発表しました。彼は、自らの経営判断ミスにより現状を招いたと認め、全責任を負うと声明を出しました。
声明では、約1100万ドル(約17億円)の資金を調達したが、ビジネスが収益を生み出せず、最終的に資金が尽きてしまったと説明しています。しかし、この声明は内容が不明瞭であるとして、タレントやファンからさらなる批判を浴びました。特に、慈善寄付金について「後から知った」という釈明は、コミュニティからの反証によって否定されました。
タレントへの情報共有も、公式声明の1時間後にDiscordで一斉に送られたコピー&ペーストのメッセージに過ぎなかったと報じられています。
今後の展望
VShojoは事業閉鎖となりました。これにより、多くのタレントは独立したVTuberとして活動を続けています。
Ironmouseさんは、未払い分の寄付金回収に向けて、VShojoに対して法的措置を追求している段階にあります。このような状況から、会社が賠償金逃れのために横領や詐欺で罪に問われる可能性も指摘されています。
日本のVTuber事務所は大丈夫なのか?
VShojoの騒動は、海外のVTuber業界の現状を浮き彫りにしましたが、日本のVTuber事務所と比較してどうなのでしょうか。
日本の大手VTuber事務所(例えばホロライブやにじさんじ)は、「アイドル養成型」とも呼ばれ、タレントの育成からプロモーションまでを事務所が主導するスタイルが一般的です。また、キャラクターの著作権(IP)を事務所が保有するケースが多いという違いがあります。
VShojoは「タレントがIPを保有し、配信収益やグッズ売上も全額タレント収入」というビジネスモデルを掲げていましたが、これが事務所の収益源を不明確にし、最終的に持続不可能になった原因の一つとして指摘されています。
日本の企業においては、海外と比較して「個人よりも企業の方が信用できる」という価値観が一般的であるとも言われますが、VShojoの件は、業界全体における契約の透明性や健全な運営体制の重要性を改めて問いかけるものとなりました。
また、タレントと会社との間の秘密保持契約(NDA)が、問題の早期発見や情報共有を妨げていた側面も指摘されており、この点については日本の事務所も無関係ではありません。しかし、日本のVTuber事務所で今回のような大規模な金銭トラブルが明らかになることは稀な印象です。
VTuber業界が直面する信頼の危機と未来への教訓
今回のVShojoの騒動は、華やかに見えたVTuber業界の舞台裏に潜む構造的な問題と、信頼の脆弱性を露呈させました。見た目は「タレントの楽園」であったはずの事務所が、実際には未払いや寄付金流用、不適切な内部運営によって破綻したという事実は、多くのファンや関係者に衝撃を与えました。
この一件は、VTuber業界全体に対し、契約の透明性、公正な報酬分配、そしてタレントの権利保護の重要性を改めて認識させる大きな教訓となるでしょう。タレントが声を上げ、独立して活動を続ける姿は、困難な状況の中でも業界が健全な方向へ向かう可能性を示しています。今後は、企業とタレントの関係性がより健全で持続可能なものとなるよう、業界全体での改善と監視が求められます。ファンとしても、応援する存在が安心して活動できる環境が整っていくことを期待しています。